「複雑な地域課題こそ面白い。」新卒から挑戦のフィールドは地域。【岡本竜太さん】

飛騨高山に生まれ、実家が旅館を営んでおり、新卒から地元の旅行ベンチャー、その後石川県のまちづくり会社「株式会社御祓川」を経て、2019年の秋にUターンし信用組合に転職。新卒から現在まで”地域”でキャリアを歩み続けている岡本さん。株式会社御祓川では、三本柱である”ひとづくり”の事業展開やインターンシップのコーディネーターとして様々な人をつなぎ、伴走支援に尽力されてきました。岡本さんに地域の仕事や地域課題に対する想いについて伺いました。

☑基本情報(プロフィール)
【名前】岡本竜太
1988年飛騨高山生まれ。横浜国立大学を卒業後「地域に入り込むならまず地元」という想いから、新卒Uターンし旅行ベンチャー企業へと就職。飛騨の里山を活かした外国人向けガイドツアーに携わる。2013年、民間のまちづくり会社「株式会社御祓川」への転職を機に石川県能登半島へ移住。地域の中小企業の「人」の課題を総合的に支援する「能登の人事部」の事業マネージャーとして、採用・移住支援、スタディツアーなどを通じた多数の企業支援・人材受入実績を持つ。2019年9月からUターンし信用組合へ入行。新しい金融機関の形を目指してクラウドファンディングや地域通貨を活用した飛騨のブランド化に取り組んでいる。

☑”地域”に関心をもつきっかけは何であったのでしょうか?

実家が旅館であるのと地元が観光地なので、自然とインバウンドや外国人を身近に感じる環境で育ったからです。飛騨はすごく良いところだと思っていたけど、最初から自分が働くイメージや帰るイメージを持ててはいませんでした。ですが、大学の時に関わった地域系のプログラムや、スペイン留学を経て、地域の仕事に関わっていくことの面白さを感じました。もともと、地域に関心を持てる環境や背景があったのと、大学の時の経験の両方が繋がって、やってみたら面白いかなと思うようになりました。

-関東の大学に進学されていらっしゃいましたが、東京で働く選択肢はなかったのですか?

最初は東京で働こうと思っていて、東京のITベンチャーから内定をもらっていました。でも、NPO法人ETIC.のプログラムで地域に関心のある大人たちと出会い、7年前はちょうど世間で地域への関心度が高まっている時期で「このタイミングで東京で働くのはなんか違うな、地域に新卒でいきなり飛びこむのが面白い選択肢かも。」と思ったことと、地元がどんなまちなのかを改めて知ってみたいという想いから、あえて新卒でUターンしました。

-地元のベンチャー企業で働いてみていかがでしたか?

自分のいまの能力や飛騨の環境、どういう人が飛騨で住み、活動しているのかどうかが見えてきました。その上で、別の場所で学んで、より飛騨に貢献できるんじゃないかと思うようになりました。

-一度地元から出てみようと思われたのですね。

新卒で、飛騨で仕事ができたのは地元の人間という強みを生かしたからだと思います。その会社は、社長も社員も県外からの移住者で構成されていたので、僕みたいに地元の人間で、色んな所でコネクションがあったり、顔が知られているってことは、よそ者のベンチャー企業(旅行会社)にとってはすごく良いポジションだったんですよね。一方で、強みはそんなになくて、地元の人であることだけが強みではない状況にしたいと思うようになりました。

☑地域の企業に興味を持ち、地元の旅行ベンチャー企業に一度就職するなど、様々な地域や企業と出会う機会があったかと思います。その中で、どうして株式会社御祓川を選んだのですか。

ちょうど転職しようかと考えていたときに、株式会社御祓川か、大手人材系会社で悩んでいました。先に御祓川の社長奈美さんと話して、盛り上がったんですよね。

-何で盛り上がったのですか?

地域をどう支援していくかとか、今後地域にどういう方針が必要かという話をして、会社や支援の方向性が社長と一致しました。もう一方の会社は、地方創生に対してスケールの大きな話をするものの、地域がただ消費されるだけで地域にお金が落ちるのが見えませんでした。僕は、御祓川のような小さな会社でやれた方がいいんだなと思って、最終的に御祓川を選びました。

☑岡本さんの担当している仕事の内容について教えてください。

大きく分けると、「企業の支援」と「人材の支援」の2種類やっています。「企業の支援」は、3つに分かれています。1つ目は人材紹介や採用コンサルティングのような採用支援。2つ目は、インターンシップで大学生を活用した新規事業検証や課題解決の支援。3つ目が、今働いている社員の人材の能力アップや、業務効率をあげるための人材育成研修の実施です。

「人材の支援」は、大学生や移住者のキャリアサポートや、企業支援を通じて見つけてきた仕事を移住者に紹介するといった内容です。あとは、一般的な旅行というよりも学びの要素が大きい、地域課題をテーマにした 地域に触れるスタディーツアーも行っています。

☑岡本さんが担当されている、能登の企業支援を行っている”能登の人事部”についてお聞きします。

岡本さんが入社される前にはなかった御祓川の事業ですが、能登の人事部を立ち上げた経緯について教えてください。

※能登の人事部
地域(能登)に根づいた仕事が掲載されているWEB求人サイト。
移住を検討している方や能登でキャリアチェンジを検討されている方のサポートをしている。新卒のキャリア設計、兼業人材の新しい働き方、UIターン者の移住支援など、求人の「周辺」にある事柄をサポートしている。
https://noto.work/

大学生を能登の企業に入れるインターンシップ(御祓川の事業”能登留学”)は話題にもなるし、大学生もすごく頑張ってくれます。しかし、インターンシップを入れる一番の目的は、企業の課題解決をするとか、新規事業の検証をすることなんですよね。だから企業は、インターン生が成果を出した以上、次のステップに進まなきゃいけないわけです。例えば、次はインターン生でなく、誰か人を雇うといったステップに繋げることが理想なんですよね。

※能登留学
大学生向けのインターンシッププログラム。課題を抱えている企業の現場に、インターン生が入り、地域や企業が抱える課題に取り組む。インターン生は、期間限定のプロジェクト担当者として活動する。
https://notoryugaku.net/

-インターンシップを実施した企業が、その次の段階に進むために何が必要なのでしょうか?

企業の次のステップをサポートしていくためには、研修や採用支援をしないといけない。
しかし会社の中で、人が採用ができたり、人材育成ができる社内体制になっているとは限らない。何かしらその部分での支援が必要で、じゃあ大手のサービスは中小企業には向いていない。

-どのように支援していこうと思ったのですか?

そこで、ステージが上がった企業を支援できるような体制をうちが持たなきゃいけないんじゃないかという話になりました。インターンシップの実施だけではなくて、採用や研修もできて総合的に会社を支援することができたらいいのではないかと話がまとまり、能登の人事部としてやろう、と2016年に立ち上げました。

☑”能登の人事部”を通して、能登の中小企業や地域がどうなることが理想なのでしょうか?

人材を確保するために投資ができる能登の企業が増えればいいと思っています。どうしても、能登に限らず地方都市は人を採用することや人を育てるためにお金をかけるという部分が、雇用条件も含めて弱い。人材を適切に評価して、力を活かしていくことが能登の会社の中に増えていくといいなと思っています。

-大企業やベンチャー企業ではなく、地域の中小企業を選んでもらうにはどの部分を魅せていけばいいと思いますか?

そこの地域の面白さや、自分のキャリアがちゃんと積める場所であるというのが分かるかどうかが重要だと思います。なので、会社の単位で努力するのは最低条件な上で、どうやって人を受け入れている地域なのかとか、そういうことを見せられるかどうかがとても重要だと思います。

-能登の場合だと、何に力を入れていますか?

能登の場合だと、能登の人事部と合わせて、”能登半島移住計画”というのをやってるので、そこで地域の面白さの情報発信とか、地域のコミュニティづくりをしています。田舎にある会社に来ても、研修や自分のキャリアが積めるようなサポートがあることがわかっていれば、来やすくなると思うので、その部分をサポートしながらやっています。

※能登半島移住計画:七尾市・能登半島への移住・Uターンをお考えの方に向けて、「お仕事」から「住まい」「地域のご案内・交流」を移住コンシェルジュが自ら移住した経験を活かしてコーディネート、相談を受け付けている。【http://moving770.com/】

☑実際に、御祓川の仕事をやってみていかがですか。

まだまだ数少ないですが、総合的に企業の支援ができています。企業の人が僕らを信頼して相談して頂けるので、企業との関係性が深まっていると思います。「能登留学から能登の人事部」という風に、企業支援のやり方をシフトしていって、多様な動き方ができるようになったのは面白いなと日々感じています。

-インターンから能登の人事部へとサポートの仕方を変えていくことで、新しく生まれたことはあったのでしょうか。

県外からの移住者を伝統産業の家業に紹介したことがあります。それまではインターン生が入って一定期間で終わっていたプロジェクトが、外部社員の採用を経て本格的に動くようになりました。

☑働いていて、面白いと感じるところについて教えてください。

いろんな会社のビジネスモデルや課題に触れられることですね。色んな組織構造があるんだとか。それを知れるのはすごい面白いなと思います。あと、自分がいなかったら能登に来なかった人がいるとか、自分がいたからここに来た人がいるというのはあります。それがすべて自分のお陰だとは思わないけど、自分の行動が人を動かすきっかけになっていることもあるので、そこが面白いなと思いますね。

-岡本さんがいなかったら、能登に来ていない人もいたかもしれないと思うと、とても重要な存在ですね。コーディネーターの仕事としてはいかがですか?

コーディネーターとしての仕事の魅力は、多様な仕事に取り組みながら、自分のスキルアップができることです。コーディネーターの仕事は幅広くて、キャリアコンサルタントみたいな仕事もあれば、企業のコンサルタントの仕事、ライティング、編集、ツアーのコーディネーター、営業など、様々。その分苦手な仕事があったりと難しいこともありますが、それはすごく面白いと思いますね。

☑株式会社御祓川で働いて、何が得られますか。どんな機会がありますか?

幅広い仕事を体験できるので、自分がどこの分野が得意かというのを判断しやすいと思います。一通り御祓川の仕事に関わってみることによって、企業を支援をしていく中でも、自分は営業が得意なのか、経営支援・戦略を練るのが得意なのかとか、判断しやすいと思います。長所・短所に気づきやすく、短所を半人前にすることや長所を伸ばす機会も作りやすいです。あとは、政治家、市民、企業の人など、色んな人と関わっていくことができます。

-インタビューの冒頭の話で、「飛騨にいるときは、地元の人間としてしか自分の強みがない。」と仰っていましたが、御祓川で働いた今、地元に戻って生かしていけると思うことは何ですか?

「何とかする力」ですね(笑)

-それはどういうことでしょうか?

例えば、大きい仕事が来るじゃないですか。受けた仕事を具体化してから、「じゃあここまでは誰かにお願いしよう、残りは自分でやろう」みたいな感じで仕事に色を付けて、振り分けることができるようになりました。地域の仕事ってフワッとしている依頼も多いので、それを最終的に形にしてアウトプットすることができるようになりました。

☑岡本さんは、今年の秋から地元の会社に転職されますね。次の会社の仕事内容についてお聞かせください。(※取材は2019年8月中旬に行いました。)

次の会社は金融機関なので、金融機関に関係する企業を支援します。今までの金融機関の企業支援の仕方としては、どうお金を貸すかとか、コストカットをサポートすることが多かった。そうではなく、クラウドファンディングを使って新しいプロダクトの展開をサポートしたりとか、いま能登でやっているような総合的な採用のサポートをする仕事を担当します。

☑次の会社ではどんなことをしていきたいとお考えでしょうか。

次は、ある程度地盤が出来上がっている会社でまちづくりのお仕事をします。それを活かして、数値的な成果や、たくさんの事業をつくることをやりたいと思っています。これまで御祓川でやってきたことは、地盤がなかったり、依頼される仕事がふわっとしていたり、仕組みをどうするかを整備してくることが多かったので、これからは様々な手段を使って、企業支援や地域のブランディングにつながるような成果や具体的な事例を出していけるようにしたいなと思います。

☑岡本さんはこれまでずっと地域でキャリアを築かれていらっしゃいますね。どうして地域でのキャリアを選び続けるのでしょうか?

僕は、新しいものを作るというよりは課題萌えのところがあるから、どっちかというと 難しい環境下において、どういう解決ができるかに挑戦する方が向いてると思っています。そういう意味で、地方が面白いかなと。どこにでも課題はあるけど、地方はより複雑で、資本主義経済的に解決できない課題があって、そこに取り組む方が面白いなと思いました。

東京で働いてみたいなと思うこともあったけど、そもそも僕は東京一極集中という日本の国の構造が間違っていると考えています。本来それは分散させるべきだと思っています。だからこそ、東京でも自分は働けると思うけど、東京で働かないキャリアを選んで社会に貢献していきたいと思っています。

地域の中のひとづくりにおける現状や今後の展開についてお話を聞かせていただきました。若者が都市に流出していってしまうどの地域も抱えている難しい課題に対して、様々な切り口でアプローチをし、柔軟に伴走型で支援されているのだと感じました。貴重なお話をありがとうございました!